ほねつぎ          (その一)




「はい、じゃあ一、二の三でいくからね。ちょっと痛いけど頑張って」
脇の下に足を入れて、腕を両手で支える。 組み敷かれた少年の顔も痛みに準備して強ばった。
「じゃあいくよう。いち!」
「うっ」
少年が呻いた。
「はい、おしまい」
浮竹はにっこりと笑って背を叩いた。
「先生…」
三でいく心づもりを一のフェイントで挫かれた少年は、抗議の声を上げようとしたが、
「もう痛くないだろう?」
と浮竹はまた笑った。少年は自分の肩を恐る恐る回してみる。
「はい…」
「はまっちゃったら痛くないけど、肩脱臼は癖になるから、3週間は安静に。 よく、痛くないからってすぐ動いちゃって抜けやすくなる人いるからね」
浮竹の言葉に頷きながら少年はサイドテーブルに置いてあった眼鏡を手に取った。
「そうしたらあと電気治療に少し通ってね」
「はい」
と答えて少年は神経質に眼鏡を直す。
「じゃあ、お大事に。あいぞめくん」
「…あいぜんです」
「ああ、ごめんごめん。あいぜんくん?また来てね」
と言ってサンダルを履くと、浮竹は次の患者を呼んだ。
処置と説明を受けて、素肌に恐る恐るワイシャツの腕を通し、地元高校のブレザーを羽織って 藍染少年は待合室に戻った。間もなく受付の元気な女性の声に呼ばれる。
「あいぞめさーん」
「…あいぜん、です」
少年はまた眼鏡を正した。














イントロダクション。(肩脱臼は組敷きません)
0221-0419.2011(0727.2011加筆訂正)






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