楓蔦黄  (ふうかつきなり)  (前)



「そんなこと絶対に無理だ」
浮竹が、ひざ小僧をちょっと左右に開いて正座し、 その上に握った手を置いてぴんと背を伸ばした姿勢で言った。
「それがあ、そうでもないんだって」
「いや無理だ」
「どうしてもだめ?」
「だめと言うか無理だ」
京楽は参ったなあ、と言いながら頭をかいた。
先刻から進まぬ無益な押し問答である。

「じゃあさ、君はさ、僕らはこのままずっとプラトニックで行くと言うわけ?」
「キ、キスはするじゃないか」
「それから先は?」
「君は悶々と眠れぬ夜をすごすということがないのかい?」
「…それともこの思いは僕だけのものなのかい?」
「ああそうか僕だけがこんなに君が好きでケダモノで下品なんだ」
「そ、そうは言ってない」
「じゃあ」
「だから、何故俺が、その…と言っている」
「え?なんだって?」
「だから!フェアじゃない!」
「何度も説明したでしょ。それは僕が君を抱きたいからだよ。それとも君に出来るのかい?」
「う」
「啼く浮竹を見たいんだ。この僕が。それとも僕がよがるのが見たいの?それはまあ、 マニアックだがおいおい考えるとして」
「ろ、露骨だな」
「君がそう愚図るからだよ」
浮竹は近寄ってくる京楽を反射的に避けた。
「君はなんだ、生娘かい」
「! お前のそういう言い方はずるい」
「そうかい」
「まあ、秋も深まり紅葉も美しく染まっている。 美しいことをしようじゃないか」
「うつくしい?」
「そうだよこの世で愛は一番美しい」
「お前のそういう物言いは信用できない。今まで何人にそんなことを言ってきた」
「無粋なことを言うのはこの口かい」
京楽は浮竹の口を自分の口を使って塞いだ。



「少し痛いかもしれないけど我慢して」






後編

11282009
続きますが期待しないで。


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