LOVE & PEACE 12 「行かなければならない場所がある」 と浮竹は言った。 白い包帯をした厚みのある手に自分の手をそっと乗せかけた。まるで何かを誓うように。 「痛かったか?」 「大丈夫さ」 「すまなかった」 「大丈夫だって。それよりきみが無事でよかった」 「……。そのことだが、ナイフを持ったのは俺じゃない。林檎を剥こうと思ったお前だ。それを俺は全く制御できなかった。お前に呼ばれて自覚した後、今度はものすごい恐怖に襲われた。もう、限界だと思ったんだよ」 「……なんてこった」 「ああ」 「僕の早とちり」 浮竹はこけ落ちた頬を緩ませた。 「しかしいずれ、そんなことが起きてもおかしくない」 「浮竹」 「だから行く」 「どうしても?」 「行く」 「止めても聞かないね」 浮竹の強情は知っている。京楽は目を閉じた。 「帰ってくるよね」 「もちろんだ」 そんな約束をしたのだった。 それはつい数時間前のことだ。 京楽が衝撃で閉じた目をひらくと、そこは暗闇だった。 ほんの子どもに突き飛ばされたのだ。 重い扉が閉まる音がした。 数回ロックのかかる音を聴いた。 背が冷える。 足元から嫌な寒さが上がってくる。 動悸がする。 閉じ込められた……。 「京楽!」 浮竹がまるで夢からでも覚めるように顔を跳ね上げた。 「おや、浮竹。彼が心配かね?」 「なにが……起きた」 少し朦朧とする。 「彼が立っていた背後はウオークインタイプの金庫だよ。彼は、迂闊だったね。一人でここに来た君を後から追って来た事も。何もかも」 「金庫……開錠ナンバーは?」 「僕が教えると思うのかい?」 「……!」 藍染は艶然と微笑んだ。 「僕に忠誠を誓いに来たのじゃなかったのかい? 浮竹」 「違う。取り戻しに来た。自分を」 藍染は少しだけ目を細めた。 「こうして触れていなければ、俺はお前の催眠にかかってしまう。お前の催眠方法は特殊だ。その声だ。だから電話だけで操られる。だが、触れていればかからない。だから今まで一度もお前は、俺に触れたことがなかった。今日まで一度も」 「こうすれば、俺はお前の中に入っていって、自分の記憶を取り戻すことも可能だ」 「私が教えた」 「ああ、そうだな」 「それで、欲しいものは見つかったかね?」 「ああ多分」 「浮竹、君は素晴らしい」 「金庫のナンバーを教えてくれ!」 「それは見つからなかった?」 「……もしかして、知らないのか」 「彼なら大丈夫だよ。ワンダーワイスは銃を撃っていない。彼は怪我はしていない。少しばかり暗くて、狭いだけだ」 「……!」 「そして、ああ!君は私に恭順を示しに来たのではない、君はこの私にお別れを言いに来た。親愛を示しに来たのにしては、手が冷たすぎた」 「知っていて何故――」 「知っていて何故そうさせたのでしょうかあー」 軽い声が響いた。 振り向くとストライプの帽子に手を当てて、挨拶をする男。 「ご無沙汰、しています」 浮竹のことをちらりと見て、藍染に、 「見透かされたかったんですよね」 と言った。 next 09262013 |