LOVE & PEACE  6



翌朝、雨は上がっていた。
すっきりと晴れて、雨雲はどこかへ消えている。
京楽が階段を下りると、見慣れぬ傘が転がっていた。 浮竹のものではない、高級そうな傘だった。

浮竹はというと、熱を出して寝付いていた。




「おはよう。浮竹、朝だよ」
「……ああ」
浮竹がぼんやり目を向ける。
「頬の痣が、紫色になっていてとても痛々しいな」
「痣?」
「どこでぶつけたの?」

浮竹はのろのろと頬に手を当てた。




「逃げてるの」
大きな瞳の少女は言った。
「そうか。でも、ここにずっとは、いられない。それはきみも知っている」
少女は俯く。
「大丈夫だよ」
ぽんぽんと頭をなでると、少女は顔を上げた。
浮竹は頷いて見せる。
「何から逃げている?」
浮竹は直接少女の心に語りかけている。浮竹の声は少女の内部まで届く。
二人は見つめ合い、少しの間をとると、少女の口調は突然大人びて、
「力を持つもの……正しく行われなかった権力の、行使」
と言った。
浮竹はもう一度頷いた。

手を取った瞬間重力が反転したと思ったのは、自分が倒れたからだった。
真っ暗闇から目を覚ますと再び白く眩む部屋にいて、藍染が自分を見ていた。
「君、倒れたんだよ、大丈夫かい?」
返事はしないで、浮竹は眩暈のする頭を軽く振った。藍染は、
「浮竹、大丈夫かい?」
ともう一度言い、自分のハンカチを差し出して来た。
浮竹の頬には、涙が伝っていた。

「それは、私が流すべき涙なのね」

向かいに座るネリエルが、しっかりとした口調で言った。









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11282012-03152013


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