LOVE & PEACE  5



そこは、砂漠だった。
見渡す限りの何もない、白い砂漠であった。

地平線から上は、まるで嘘のような青空。
その、殺伐とした大気。


泣いている。
誰かを探しているのか。誰かを呼んでいるのか。
待っているのだ。
自分を探してと、呼んでいるのだ。

大丈夫だよ、と手を伸ばす。
見上げる瞳は大きく、そしてとても澄んでいた。

「一緒に来るかい?」

少女はおずおずとその手を取る。
「名前は?」
「……ネル。……いいえ、ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンク」

手を繋いだ瞬間、突如として視界が真っ暗になった。重力が逆転して、浮竹は床に頬を叩きつけられた。




「浮竹!」

耳元で京楽の呼ぶ声がする。
顔が見たい。
しかし体がとても重くて上がらないので、視線を上げただけで確認した。
覗き込んでいるのはたしかに京楽である。
「……きょう……ら」
浮竹はかすれた声を絞り出した。
「浮竹、浮竹。なにがあったの」
「……」
身体が支えられている。
「おかしいな……」
頬には鈍痛。
「お前が俺を抱いている……」
「きみ、倒れそうだから」
浮竹の目線が京楽の顔から落ちた。
ここはいつもの部屋で、安らかな場所だ。つまり、自分は帰ってきた。
浮竹は安堵して全身の力を抜いた。
「すまん……」
もう自分で自分の体を支えられない。
「ああ浮竹、大丈夫……じゃ、全然ないね」



京楽は浮竹を部屋に運び込むとソファに寝かせた。全身びしょ濡れで、顔色は無く、話すことさえ困難なようだった。京楽は雨で濡れて重くなった足から靴を脱がせ、ついで濡れた靴下も脱がせた。足先がとても冷たく冷えていて、爪が白い。手の指も確認した。手のひらを少し擦り剥いている。
「すまん……」
「体がすごく冷えてる。それから貧血しているみたいだから、そのまま起きちゃだめだよ」
「すごく……すごく疲れた」
「うん。何か食べられそうかい? 温かいものを体に入れたほうがいい」
浮竹は首を振る。
「飲み物だけでも」
「とても疲れているんだ……すまない」
「浮竹」
京楽はタオルを持って来て浮竹を頭からゆっくり拭った。顔を拭いて、髪の毛を乾かす。
「疲れたんだ……」
浮竹が呟くように繰り返す。
「浮竹……。僕は、きみに今日何があったのかとても知りたいけど、もう、眠たいかい?」
浮竹はそれに答えたのかどうか、頷くように、溜息をつくように目を閉じた。
「……すまない。京楽、すまない」
そしてまるでうわ言のように繰り返す。

「浮竹、謝らないで…」









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11292012




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