I WANT YOU I NEED YOU 2 −楽々探偵事務所− 「うわー…」 夕方になって件のマンションを二人は連れ立って訪問した。 事務所のある雑居ビルの、敷地を少し置いてそのマンションは建っている。 初めてエントランスに入ると、なるほど本物の高級マンションであった。 男の住む部屋は最上階の一階下で、最上階から三つまでの階は 直通のエレベーターが個々に付き、つまり自分専用のエレベーターと 通路を持っているわけだった。 京楽が男の部屋番号を押すと、電子音がしてモニターから 声が聞こえてきた。 「やっと来たな」 「どうも。遅くなりまして」 「やっかいだから、俺が行く」 「すみません」 やっかいとはセキュリティーのことだろうと京楽は推測する。 どうも言葉の足りない男だな。とも思った。 おそらく本人と一緒でなければ見知った人間以外は 容易に入れないシステムになっているのだろう。 「浮竹、迎えに来るって」 呼ばれた浮竹はぼんやりとしている。寝起きが最悪に悪いのだ。 夕方に起きるのは特に苦手だった。 「…何階だ?」 「最上階のいっこ下」 「京楽どうする」 ポーンという上品な音がして開いた エレベーターからスタークが姿を見せた。 「こっちだ」 二人の姿を見るとすぐにきびすを返して再びエレベーターに 乗り込む。 「ああ待ってよ」 長身の男ばかり三人を乗せた無言のエレベーター内は機械の音だけが響く。 個人専用のエレベーターは階数表示がなかった。エントランスと自分の部屋のみをつなぐ。 しかし京楽たち事務所の雑居ビルのエレベーターよりも広かった。 スタークは二人に目をやってから一度眉を上げてみせたが、すぐに 点灯している上昇の表示に目を戻した。 京楽が浮竹の手を握っていた。 エレベーターがまたポーンといってのち音もなく扉が開き、 彼の部屋はすぐだった。ドアに手をやるスタークに 「例えばなにか手がかりになるような…」 京楽が咳払いをして話し始めたのがすぐに遮られた。 浮竹が口元に手をやる。 屈(かが)みがちになって白い長い彼の髪がさらさらと肩から落ちた。 「浮竹」 「…部屋の中だ」 「部屋の中にいるのか!?」 スタークが言う。 「おたくさん、順応が早いね」 京楽は言った。 「瑣末なことは気にしないだけだ」 「なるほどね」 などと言う京楽の言葉など聞きもせずに、スタークは浮竹の腕を掴むと 抱えるようにして部屋に入った。 「どっちだ」 という言葉はたいてい外で使う。 しかしスタークのそれは正しかった。 部屋は迷路のように広かった。 そして浮竹は泣いていた。 「情の強い子だ…悲しみが溢れている…」 迷路を歩いて浮竹が行き着いたのは鉄の扉の前、そこは大きさがクローゼット程のある金庫だった。 「この中?ナンバーは?」 京楽が浮竹を半ば奪い返しながらスタークに聞く。一方 スタークは用済みとばかりにあっけなく浮竹を放し、 「知らない」 と言った。 「使っていないからな。前の持ち主の物だ」 「そう…業者を呼ぶのが一番早いんだが…」 京楽は金庫のテンキーをじっと見つめていたが、 「チャンスは何回かな?」 と呟いてメモ用紙を出した。 埃のつき具合と手の油のつき具合でどのキーが使われているかが 分かる。 場合もある。しかし 「ん。これ、開いてるね」 続 02182010 |