I WANT YOU I NEED YOU ・3 −楽々探偵事務所− 「僕の格好良い出番なし」 金庫の重い扉を開けると中には小学生ほどの子どもが身を丸めて眠っていた。 頬には泣いた跡がある。 「リリネット!」 スタークがかまわず叫ぶと、子どもは飛び起きた。 「…スターク!!」 こちらを見ると真っ直ぐスタークに向かって、初めに殴りかかった。 同時にスタークは蹴りを入れ、京楽と浮竹がどう対応しようかと見ているうちに、 二人はしっかりと抱き合っていた。 再び泣いて目を真っ赤にしたリリネットを連れ、 リビングらしき広間に案内された。 飾り気のない部屋に一つ大きな、シルバーに光る螺旋状に複雑な起動を描いて回るオブジェ が置いてあった。じっと見ていると目が回る。 「スタークがそういうの好きなの!」 「ふうん」 そして中央にはグランドピアノが置いてあった。 スタークは素っ気無く 「職業だ」 と言った。 「どっちが?こういうの作るヒト?」 京楽が問うと、スタークがむっと面倒そうに 「ピアノの方だ」 と言った。 隣で浮竹が息をつく。 「とと。すまないが、浮竹を少し休ませたい」 スタークは頷いた。 「リリネット」 リリネットが案内したのはキングサイズのベッドが 置かれてもなお広い寝室で、そこに浮竹を寝かせた。 あまりに強すぎる感情に触れると浮竹は消耗する。 たいていはひどい頭痛となって揺り返してくる。 それにもともとがあまり丈夫ではない。 「ねえ。おじさんすごいね!」 「すぐ分かったの?ねえ」 「…ああ。寂しかったね」 「分かるの?すごい!」 「リリネット」 スタークが再び呼ぶ。 「しかしまあ、結局自分の家にいたんじゃあないの」 京楽がソファに深々ともたれて言った。 スタークが少しむっとして、 「部屋は2、3しか使っていない」 と言った。 「もったいない」 「必要ない」 スタークとリリネットが住むこの部屋は、 下の階のスタンダードタイプの部屋の全ての敷地を 二世帯分に分けて作られていて非常に広い。 つまりこの階には二部屋しかない。 最上階はさらにその仕組みで全世帯分の敷地を使って一部屋 のみというオーナールームである。 「さて、リリネットくん。なんでまたあんなところに隠れてたの?」 「…スタークが、金庫は大事なものを入れる所だって前に言っていたから」 リリネットがスタークを見る。 「あたしはスタークの大事なものでしょ?」 「リリネット。一般にはそうだと説明しただけだ。 俺が大事なのはお前一人だ。金庫は要らない」 リリネットが涙ぐむ。 「こんなことはもう二度とごめんだ」 「スターク!」 リリネットがまた泣きだす。 「はいはい、よしよし」 京楽は前に乗り出して話をまとめようとしたが 「スタークごめん。だけど、だけどスタークがあんなこと言い出すから…」 「話しは最後まで聞け」 無視された。 「うーん。それで?」 「朝、こいつに学校の話をした」 「学校?」 「リリネットには才能がある。きちんとした教育を受けさせてやりたい」 「才能?」 「音楽のだ」 「なるほど」 「学校に入れるには、戸籍だの何だのが必要なんだろう?」 「まあね。学校以前に必要だけど。つまり一人の人間として」 「嫌だよ!二人で一人だよ!スタークがそう言ったんじゃないかっ」 「ん?」 「その部分はややこしいから省くが」 「手伝ってやろうよ京楽」 後ろから声が掛かった。 「浮竹。もういいの」 「ああ、大丈夫だ」 京楽はふ、と目を緩める。 「リリネットくん、スタークは君をそれは大事に思っているよ。 だからこその提案だ。これからよく話し合おう」 「白髪のおじさん…」 「お前そういうの得意だろう」 「僕、めんどくさいのはちょっと」 京楽が頭をかくと、 「頼む」 とスタークが言った。 京楽が黙っていると 「頭を下げるか?」 スタークが睨んだ。 「…正式に仕事としての依頼なら、請けないこともないよ」 ため息をついて、京楽はほとんど浮竹に向かって言った。 二人は見送りに出てくれた。京楽がぼやく。 「直通エレベーター…うーん」 心なしか顔色が冴えない。 「早いよ!」 リリネットが言った。 「京楽は狭いところが苦手なんだよ」 浮竹がリリネットに説明すると、スタークが首を傾けて言う。 「閉所恐怖か?」 彼の癖らしい。 「まあそんなとこ」 「なんだ。ホモじゃねえのか」 「…なんか君に言われたくないよ」 「京楽、リリネットくんは女の子だ」 「ええ?」 エレベーターの扉が開く。 そして再び音も無く閉まると、京楽は浮竹の手を握った。 了 03052010 リリネットを男の子だと思っていたのは私。なんかパロの京楽が鈍くさい。 スタークに「ホモ」と言わせるか「ゲイ」と言わせるか迷いましたが、スタークは割と口が悪いので 本文の通りになりました。 |