LOVE & PEACE  14




その時、浮竹の頭の中で何かがスパークした。
強烈にまぶしい光が自分に襲いかかった。あまり衝撃で、何が起きたのかよく分からなかった。


浮竹はワイルド・ワイスに向かい合ってひざを折って座り、彼の手を取ると目を閉じた。ワイルド・ワイスは逃げなかった。目の前に来た男を不思議そうに見る。
どうか心を開いてくれ、伝われ。
息を整えて集中を高める。


浮竹は思念をキャッチするが意識はしない。自分が何をキャッチしたかを確かめるには、もう一度自分に意識を向けることが必要だ。他人と自分、意識の中で、二つを両立させ分けさせる。その作業はひどく消耗する。しかも能動的に、意識を捕まえに行く。そんなことができるのか。皮肉にもその方法を、最近一度経験した。

額に汗がにじんで流れた。
浮竹の周りに藍染の部屋も浦原の声もなくなり空白になった時、そのスパークは起こった。
ワイルド・ワイスは頭を抱えた。彼の中でも同時に起こったそのスパークに驚いたのだろう。浮竹は切れ切れに礼を言って、金庫に手をのばした。

テンキーを一つ、一つ丁寧に叩く。数字が押されるとともにバックライトがともっては消えていく。 2度目はないはずだ。間違えば何分、あるいは何時間待たされるか分からない。
最後の数字を押し終わり、息をのんで待った。
承認を示す明かりがともる。
浮竹は取っ手に手をかけて、引いた。
扉はゆっくりと開いた。



京楽が、がっくりと首を落として座り込んでいた。
「京楽!」
浮竹が中に身体を入り込ませて手を差し出すと、京楽は浮竹を見て目だけで笑った。

半身を入れて京楽を抱え出す。
「京楽、大丈夫か。気分はどうだ?」
問いかけながら京楽の首もとのボタンをはずして緩める。
京楽の顔色は悪く、唇は乾いていた。背中が汗で湿っているが手を当てると体の震えが伝わってきた。
「もう大丈夫だ。遅くなってすまん」
京楽は緩く首を振った。普段は穏やかなその眉間のしわが深い。
「話せないか」
浮竹は京楽を気遣った。
「大丈夫だ。もう大丈夫だ。大丈夫」
浮竹は大きな身体を抱いた。

「キスしてちょうだいよ……」

京楽がしぼりだした声で言うと、浮竹は微笑んで、京楽の口に、ほんの触れる程度のキスをした。




「帰ろう」
僕らの家へ。
大きすぎるその部屋にはもう誰もいなくなっていた。


さようならだ、浮竹

浮竹が振り向いた。
何かが聞こえた。
京楽が問おうとすると、浮竹はすごい勢いで玄関ドアをガツンと足で蹴った。
「もう二度と来ないぞ、このセクハラ伊達メガネ!!」
京楽が横で目を丸くする。
「何だ。悪かったな、俺は人を罵倒するのが苦手なんだ」
少し顔を赤くして浮竹が言った。
「いや、いやよかったよ。今のはよかった」
「ふん。俺は一年遅れて大学を出たし、あいつは海外で飛び級をしているから本当は年下なんだ」
「そうなの。ははっ。はははっ」



笑い出しそうだ。
ボロボロの身体で、二人は大声で笑いだしそうだった。





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02282014


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