ほねつぎ (その十四) 卯ノ花烈女史は凛として、 「商店街に巨大病院を建てるなんてナンセンスです」 と言った。 「政略結婚など時代錯誤も甚だしい」 とも。 浮竹が倒れたその当日、同じ町の涅旅館で集団食中毒が起こっており、 京楽病院やその他の救急施設を持つ町の病院は全て 受け入れが手一杯の状態で、浮竹は結局少し離れた件(くだん)の卯ノ花国際病院に運び込まれた。 京楽と話していた浮竹の部屋に、医師として勤務中の卯ノ花が忙しい合間をぬって姿を見せた。 京楽と卯ノ花は親しげに挨拶を交わした。 卯ノ花は京楽の医学部を出てからのレジデント時代の先輩で、 見込みのある者に見込む分しか要求しません、 という言葉を餌にぶら下げられて相当にしごかれた。 また当時、東洋医学と西洋医学の両方を極めたいと 志望していた彼女の経歴も相当変わったものだったので、 京楽が医学部を出てから薬学部に入り直したのには、 彼女の影響も多少なりともあったと言える。 そんな諸々の事情から、京楽は彼女には昔から頭が上がらないのだと言った。 見合いについては卯ノ花が、完全に親の設定したものであり、 「自分の方から断ると角が立つので、失礼を承知で一度見合いをしてから京楽の方から断って欲しい」 とそう言って来たのだった。 また、卯ノ花は浮竹の名前を知ると、目を細めてふっと微笑み、 「そうですか。あの浮竹十四郎さんのお孫様ですか」 と言った。後を継いだことを知るとさらに喜び、 「おじい様にはその昔大変にお世話になりました。今でもとても尊敬してやみません」 と言って頭を下げられた。こちらが驚いて頭を上げてもらいながら京楽を伺うと、 「数えてはなりません」 と聞こえてきた。横で京楽が苦笑している。 「数えてはなりません。数えてはなりません」 と呪文のように繰り返すので京楽は敵わないよ というジェスチャーをして来て、浮竹にも卯ノ花女史の年齢のことは謎のままになった。 続 0715.2011 |