ほねつぎ     (その十)




ああ、京楽が困っている。

まだ幼い京楽春水は、親の言いつけを守って 外で買い食いをしない。
しかし気のいい肉屋のおばさんにコロッケを貰ってしまった。
食べ物を貰ったなどなお悪い。

持って帰れば叱られる。
食べてしまえば約束を破る。
捨ててしまうのは心が痛んだ。

「食べないのなら俺にくれ」

京楽はきょとんとしたあと、自分の白い髪に目をやった。

「病気なんだ」

と先立って答えると、それ以上聞かずに頷いた。

「ありがとう。浮竹十四郎だ」
「僕は京楽春水。ありがとう」
「きみ、家近いの?」
「ほとんど寝ていて、あまり外に出ないんだ」
「そう。今日はどうして出てきたの? 具合がいいの?」

「今日はお祝いだ」

黒髪の長い着物の美しい女性が通りかかる。
京楽は名を呼ばれて話の途中なのにそちらについて行く。

「待って。コロッケを置いていけ」

困ったようにして一度振り向くがまた背を向けてしまう。



「行ってしまうのか? 京楽。みかんをやるから戻って来い。なあ、京楽、京楽、京楽……」













0715.2011






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