竹笋生 (ちっかんしょうず)



「やめなさいよー」
京楽春水が困った顔で浮竹十四郎に言った。
「きみは案外強情だからなあ。困ったなあ」
「京楽が困ることは何もないだろう」
「いや、そうなんだけどね。でもやっぱり困るよ」
「どうして」
「その〜なんていうか〜」
「はっきりせん奴だ」
浮竹はさっさと出かける支度を始めてしまった。

十一番隊隊舎に行くのだという。
この前世話になったお礼だと言って竹の子を持った浮竹は、 焼き竹の子にして一緒に食べるのだと浮かれている。
「あそこにはやちるちゃんがいるしな。楽しみだな」


以前の隊首会議の場で、倒れそうになった浮竹を寸前で支えたのが隣にいた剣八で、礼とはそのことだった。
もっともそのあと迷惑そうな眼光で睨み付けられた上、なんやかやと世話を焼いたのは 目の前にいる京楽春水なのだが。

体調が戻ると今度は浮竹は、
「竹の子が出る季節だ、竹の子堀りに行こう!」
と計画し、隊の何人かを連れて出かけて行こうとした。
病み上がりすぐに出かけようとする浮竹を一応止めた京楽だったが、浮竹は病弱ではあるが普段は食べることが大好きな男だ。
初めはなだめたりすかしたりしていた隊員たちも、結局は準備をばんたん整えて楽しそうに出て行った。
なんにしろここの隊の気風は明るい。
床に伏しがちであるが明るく寛容で、よく言えばこういった子どものような愛すべき面を持ち合わせる隊長の浮竹と、 そんな隊長を慕い、よく助けよく働く隊員たちであった。

しかし浮竹率いる十三番隊が特別なのであって、 今正に向かおうとしている十一番隊なぞは、はっきり言って悪党の巣だ。
殺伐とした空気が絶えず漂っている。
隊長はあの更木剣八だ。
何よりも戦いを好む隊長と、またこの隊も同様にそんな隊長を慕う隊員たちの集う場所だ。
浮かれた浮竹などがのこのこと竹の子など持って行く所ではない。

「しかし剣八はあれで美味い酒が好きだぞ」
浮竹が言った。
「飲めれば何でもかまわぬと言いながら、味はちゃんと分かるんだな。 善い酒を持って行くと必ず杯がすすむ。あれは自分では分かってないが意外と分かる男なんだ」
浮竹は自分では分かっていないが意外と分からない男だよ…
と京楽は心の中で思った。

「心配だから僕も行くよ」
「何だ、一緒に行きたかったのなら初めからそう言えばいい」
京楽は何も言わず一つため息をついて、浮竹に従った。



「俺は用があるから出かける。酒は置いていけ」
剣八はそう言うと部屋を出た。
十一番隊舎は京楽の心配をよそに、浮竹をあっさりと迎え入れ 浮竹はすぐに剣八の部屋に通され、茶まで出てきた。
もしかして浮竹は京楽が知らないだけで、ここに頻繁に顔を出しているのだろうか。
「そうか、残念だな。まあいい、やちるちゃんはいるんだろう?」
剣八が瞬間鋭い目で浮竹を見たが、浮竹はちっとも動じない。
「…」
「うっきーが来てるの?わーい」
外からやちるの甲高い声がした。
「お土産があるよ!」
浮竹の目は輝き、うれしそうに言った。
「ほら」
と浮竹が抱えてきた包みを開くと、それを見て剣八の低い声が言った。

「竹笋生ず、か」

「…」
「それも置いてけ。行くぞ」
剣八はそう言って出て行った。


部屋には京楽と浮竹の二人が残された。
「意外と趣のある男だね…」
「僕の教えたのを覚えていたな…」
二人は同時に言った。
「え?そうなの?」
「ああ」
浮竹は頷き、
「やちるちゃんに話した。二十四節気と七十二候のことを」
と真顔で言った。
「…」
「で、二人でここでどうするの?」
「うむ。せっかく外出してきたのに」
「うちに来るかい?」
「そうしよう」
「七緒ちゃんにも貰えるかい?」
「もちろん」
浮竹はスキンヘッドの席官に持ってきた酒と竹の子を渡すと
「ちょっとだけなら飲んでいいぞ」
と言った。
慣れた調子で浮竹に礼を言った席官に、出口まで見送られて二人は外に出た。

初夏の風が二人の真っ白な羽織を煽(あお)っていった。









06252009
これ京浮?剣やち?剣浮? 浮やちではないですヨ。