HOLD ME TIGHT 2 −楽々探偵事務所− 浮竹が自分で水をやって育てていた多すぎるほどの観葉植物は 全て乾燥して枯れてしまったので、その頃の名残を残すのは 机と椅子と本棚、という無機質な部屋に一つだけ、額に入った絵が壁に残っていた。 大きな観覧車の描かれたシャガールのレプリカだった。 ベッドに横たわったままほとんど何にも反応を示さない浮竹の横に並んで、 京楽はぼんやりと眺める。 「ねえ浮竹…」 「呼吸することだけやめないで。僕はいつもこればかりだけど、 やっぱり今はそれだけでいい。きみはただ呼吸しているだけでいいよ。それで退屈になったら」 「あそこにある、観覧車に乗ろう。目を閉じて。二人で乗ろう」 ベッドに寄りかかって京楽は言った。浮竹がこちらを見ているのに気づかなかった。 浮竹の息が乱れたので振り向くと、浮竹の頬を涙が伝った。 浮竹は京楽の見ている前で再び泣いた。 あの荒れた部屋で抱き合った夜のように、京楽に寄り添って泣いた。 そんなことを、思い出した。 浮竹の部屋のドアが開く音がして、浮竹がのっそりと出てきた。 「どうしたの。眠れないの」 「ああ…」 「僕のベッド使っていいよ」 「悪い」 「いいよ」 京楽は自分のベッドから起き上がる。 眠れない夜、浮竹とベットを交換することがある。時々わざと起き上がらずに 布団を持ち上げて浮竹が入ってくるのを待つけれど、 浮竹はそういう時はただドアを背に立っていて入っては来ない。 それはともかく京楽のベッドは不思議とよく眠れると浮竹が言うのだ。 気に入ったのなら浮竹のベッドと交換して、自分のを部屋に入れたらいいと言うと、 それでは意味がないと言ってそうしないでいる。 それで時々浮竹はこうして京楽のベッドで眠りに来る。 ベッドに横たわった浮竹がうつ伏せて何かうめいた。 「ん?」 「京楽お前…」 「んん?」 「…余計眠られん」 耳が赤い。 「…あ。ごめんね」 ちょっと思い出してた。 浮竹はしばらく、うーとかあーとか唸っていたが、 「やめとく?」 と聞くと、 「いい。このまま寝る」 と言って赤い顔のまま布団をかぶってしまった。 京楽はもう一度謝って、笑った。 end 07192010 ちょっと本当に甲斐甲斐しすぎる京楽さん…でも京楽がHOLD ME TIGHTって思ってるんだと思う。 |