押し拉ぐ (おしひしぐ) どさっと被さる音がした。 ついで夜具が乱された。 「血の匂いがする」 「僕のじゃない、大丈夫」 「風呂に入れ」 「…!」 京楽は浮竹の着物を剥ぐと、乱暴に抱いた。 京楽がこのような態度で浮竹を扱うことが、ほんのたまにある。 大抵がひどい戦いのあった夜であった。 本来、隊長である京楽が自ら出張り、こんなふうに高ぶるほどの激しい戦闘をすることはない。 だが昨今の虚は少しおかしいのだ。 隊長と言えども油断をしていては怪我をする。 今夜も彼は、彼の隊員たちを守るため、好まぬ戦いをしてきたのだろう。 京楽は戦いを好まない。 出来るだけのんびりと、花でも見て暮らせればいいと思っている。 しかし、いったん戦闘となれば京楽は強い。 自分の身体は良く動き、頭も冴え渡る。 浮竹がいつか言ったことがある。 闘っているときのお前は冷徹で怖い目をするのだと。 京楽は、そのうちに自分が戦いを楽しんでいることに気づく。 京楽は戦うのが好きだ。 心が躍る。 だから京楽は戦いを避ける。 「きょうら…」 「…」 「京楽っ」 「…浮竹、痛い?ごめんね、ごめん」 浮竹の身体は激しく衝かれ、揺れる。 「浮竹、浮竹、浮竹、浮竹…」 「…つっ!」 「浮竹、浮竹ごめん、浮竹」 浮竹の白い足や腕が、痣になるほど強く掴まれる。 「浮竹、もう少しだけ堪(こら)えて、もう少しだから…」 「京楽…しゃ、しゃべらせろ」 「…な、に?」 「あ、あやまるな…」 浮竹は白いあごをのけぞらせた。 京楽のこの目を知っている。 身体が震える。 それはぞくりとするほど、いい。 この身体は京楽の狂気にさえ喜び震えるのだ。 身体が熱い。 自分の息が熱いのが分かる。 どうにかなりそうだと思う。 浮竹はこんな夜、京楽の雄を見る。 「…っ!」 激しさにまかせて京楽は浮竹の中に吐き出した。 「はっ……」 浮竹は京楽の背に爪を立てた。 京楽は息を乱し、浮竹の上にのっそりと被さった。 「…みな無事だったのか?」 「…うん」 重傷者を出したり、物事が明らかに片付かないうちは、京楽は自分のところへは来ない。 「そうか…よかった」 「ありがとう…」 二人は気だるく布団に横臥していた。 「浮竹、ごめん」 「…」 「知らないのか…」 「何?」 「なんでもない」 京楽がふと目をやった先に赤いものが飛んでいた。 出血させたか… 京楽は自分を嫌悪した。 大した悪癖だな…。 「浮竹。アフターケア」 「大丈夫だよ」 「だめ、させて」 「そんなにやわじゃない。これでも男だ」 「うん、ごめん」 「だから…」 京楽は浮竹の額に口付けると、湯と手ぬぐいを取りに部屋を出た。 空が紫がかっていた。 もうすぐ夜が明ける。 どんな京楽でも好きなんだと、あいつは気づいていない。 いつ言ってやろうか。 ずっと黙っていてやろうか…。 浮竹は、身体に激しく愛しい重みを覚えて眠りに落ちた。 了 07022009 |