トイトイトイ      2.天使



オレンジ色の陽がステンドグラスの高い小窓から差し込んでいる。
その小さなホールには、もの哀しいメロディが流れていた。
差し込んだ陽の明るい部分だけ、たゆたう埃が見えている。
ステージの真ん中に置かれた年代物のグランドピアノは、 ポロンポロンとそれらすべてと調和するように鳴っていた。
それは京楽が一人のときに好んで弾く曲であった。

いつの間に入ってきたのか、一人の少年がホールの椅子に座っている。

京楽はそれに気づかなかったのかも知れない。
あるいはピアノの音に合わせて寄り添うように響きだしたその声が 、今までの調和を何一つも壊さないために気づかなかったのかも知れない。
変声期前の透き通るような少年のその歌声は、彼の身体からぬけて ホールの天井までふわりと浮き、そこから光のように柔らかに降りてくる、 というような奇跡だった。

京楽はぼんやりとその空間に存在していた。
少年を見ると衣服も肌も、どういうわけか髪の毛さえも真っ白であった。
そこに透き通るグリーンの瞳が潤んでいた。

ああ人間ではないのだな、と京楽は思った。
ああ、これが天使か。


ふと、少年の衣服から出た白い脚に目を移した。
そして京楽はごくりとつばを飲んだ。










01292010





戻る