保健室の人   3



その日、保健室はにぎわっていた。
9月と言っても気候的にはまだ夏である。
暑い中の朝礼で、やはり幾人か倒れる者が出た。
その付き添いと言って、姿のいい新しい養護教諭を見ようという女子で溢れていた。
「おーい、京楽ーこっち」
浮竹が手招きする。
「間が悪かったと思って手伝ってくれ」
「…はいよ」
タオルを濡らしたり余計な人間をやんわり去らせたり、京楽は言われたことを速やかにこなした。
しばらくして、気になっていたことを口に出してみた。
「先生さっきからちょっと顔色悪くないですか?」
「言うかあ。言ったらだめだほら、自覚しちゃうだろう?今ベッド開いてないんだから…ああ」
「わ、先生」
浮竹は急にぐったりとして近くのソファの背に手を突いて身体を支えた。
京楽は慌ててそばに残っていた濡れタオルを持って近寄った。
「とりあえず、そこに」
と言ってソファに座らせた。
身長はほとんど変わらないか京楽のほうが高いくらいなので難なく支えられた。
それにちょっとひやっとするほど軽かった。
「…大丈夫ですか?」
「すまん。後は任せた…」
「え…」
浮竹は自分で濡れタオルを額から目にかけてのせて、弱弱しく呟いた。
「炎天下の朝礼ってどうかと思う…」


あらかた人の出入りが収まり仕事がなくなったので、京楽がソファに近寄ってきた。
「ご苦労さん」
と浮竹は京楽をねぎらった。
そして
「京楽は見かけによらず意外と器用なんだな」
と言った。
「やろうと思えば何でも出来るタイプだろう?」
「まあ、器用貧乏です」
「…ふむ」
「はい」
浮竹は続けた。
「この学校だってレベルは相当高いほうだ。そうサボっていたら授業についていけない だろうに成績は悪くない」
「どうも」
「あれだな」
「なんですか?」
「やりたいことがない?」
「…」
「ま、そのうち見つかるさ」
と浮竹は明るく言ってぽんと京楽の頭をたたいた。
京楽は、いつも他人に対するように上手く笑ってかわすことが、何故か出来なかった。
「…それより先生は大丈夫なんですか?」
「うん…」
「?」
「申し訳ないがあんまり大丈夫じゃない…」
「え」
「気持ち悪い…」
「ちょっと」
「洗面器…持ってきて」
「うそ」



浮竹に初めて会った日も、浮竹は商売道具(?)であるベッドに寝ていてた。
朝礼で挨拶したと言っていたな。
あれは自分も倒れたんだなきっと…。
変な人…

京楽は少し愉快な気持ちになった。












08102009


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