保健室の人   2



「失礼しまっす」
二日酔いで重い頭と胃を引きずって、京楽が保健室のドアを開けた。
「また寝てる」
浮竹が隅のベッドに長身を投げ出していた。
「せんせーい」
「ん…」
「誰か来たらどうするの?」
「あ、君か。不良高校生。誰か来たら起きるから大丈夫だ」
「そう…胃薬ありますか?」
「ちょっと待て」
浮竹はだるそうに起き上がった。
「それ、職権乱用っていうんじゃないの〜?」
「ああ、身体が弱いんだ」
「またまた」
「あ、あったあった」
浮竹は胃薬のは入った箱を出してきてぱこっと開けたが、しばらく考えて、
「…やっぱりこれはお前にはもったいないな」
といって給湯室へ入っていった。
「これを飲みなさい」
渋く入れた緑茶であった。
教職員室はコーヒーのにおいが絶えず漂っていたが、 浮竹はよく緑茶を好んで飲んでいる。
浮竹はタバコも吸わないので、保健室はいつも消毒液と、開け放った窓からの風のにおいがした。
「いただきます…」


「先生、パンク?」
「何?」
「あたま」
京楽は色の通り渋い緑茶をすすりながら、机で何か書類仕事をしている浮竹に尋ねた。
京楽は本気で言ったわけではなかったが、浮竹は
「あはは、パンクか。いいなそれ、今度使おう」
と言ってくつくつ笑った。
「いや、子どもの頃大病をしてね、以来白髪になった」
「弱いんだ。ここが」
と自分の胸を持っているペンでトンと突いた。
「そう…似合ってるよ」
「ありがとう」
浮竹が笑う。

「ごちそうさまでした」
「飲みすぎ注意」
京楽は教室へ戻る廊下を歩きながら、なにか調子が狂う人だな、と思った。









08102009


戻る