保健室の人 1 *このお話は現代パラレルです。設定:浮竹=高等学校養護教諭(保健室の先生)/京楽=生徒 「失礼しますっと…」 保健室のドアを開けると室内に人の姿はなかった。 「先生いないの?寝まーす」 慣れた様子でベッドの方に向かうと、半開きのカーテンに隠れた隅のベッドに人が寝ていた。 生徒ではない。 白髪で長身の、白衣を着た男だった。 「…?」 京楽がちょっと頭をかいて考えていると、男はすぐに目を覚ました。 「ん…?君。…でかいな。どうした?」 「すいません」 京楽はなんとなく謝った。 「あの」 「ん?具合でも悪いか」 見覚えのない男だった。 …化学の教師とかだろうか。 「お前、朝礼出てなかったな?さっき挨拶したんだぞ」 と男は言って起き上がり、白い長髪を一つに括(くく)った。 「今学期から新しく養護教諭になった浮竹だ。よろしく」 と言ってにこりと笑った。 「君は?」 京楽は少しあっけに取られたが、 「あ、京楽、です、。…松本先生は?」 と聞いてみた。 松本乱菊は前任のこの部屋の主で、京楽と妙に気が会って仲良くなり、恋愛関係の愚痴を聞いてあげる代わりに よくサボらせてもらっていた。 「休暇を取られたらしいぞ」 …さては男を追いかけて行ったな。 京楽は推し量ってひとり言(ご)ち、 「気分が悪いんで休ませてください」 と言った。 「ああ。じゃあ、そっちのベッドにでも寝ていろ。起きたら言えよ」 新しく保健室の主となった男はそう言って自分の机に戻って行った。 京楽はごろんと横になって目を瞑った。 白い髪に白い白衣がまぶしかった。 校庭で蝉が鳴いている。 「せんせーい。」 「お、起きたか」 「お世話になりました…」 京楽が頭を下げて保健室を出て行こうとすると、 「酒もほどほどにな」 と言われた。 浮竹は笑っていた。 夏が終わり、新学期が始まろうとしていた。 続 08102009 |