夜の秋



日中の暑さは変わらぬが、夜には時折秋めいた気配を見せるようになった晩夏の、
ある夜である。

浮竹が深くため息をついた。

「隊長?しんどいですか?」
海燕がそっと聞く。
「あ、いや。だいぶ楽になった」
聞いて海燕は書き物に戻る。
「海燕」
「何ですか?あ、水でも」
「しりとりしないか?」
「…眠れないんですか?」
「昼間寝すぎて眠れない」
じゃあいくぞ、と言って浮竹が勝手に始めた。
「かいえん…あ終わった」
もっかいと言って浮竹。
「しばかいえん。あ、やっぱり終わったちょっと待て」

「…隊長、まだ熱高いんじゃないすか?」
海燕が言うのを遮(さえぎ)って浮竹。
「じゃあ、じゅうしろうだ」
「普通自分の名前からはじめるかな…っていうか人の名前からだったんすけど」
「いいだろうなんでも」
「いいですけど…隊長って長兄っすよね?なんで十四郎なんですか?」
「さあ。十四人子ども作ろうと思ったんじゃないか?」
ははっなんすかそれ、と笑って海燕は、
「うきたけ」
と続けた。
「あ、お前呼び捨てにしたな」
「しりとりですから」
海燕はまた笑った。
「け…剣八」
「なんで名前ばっかりなんですか?ち。長兄でじゅうしろう」
「お前それ名詞か?」
「固いこと言わない」
「う、か。卯ノ花」
「な…波悉く我が盾となれ」
「お前それ言っていいのか。それにまたそれ名詞か?」
「やめますよ」
浮竹は急いで続ける。
「れ…冷麺。あ…また…」
「隊長!もう寝てください!」
「れ。連休取れたらオーロラ見に行きたい」
「い。いい加減寝てください」
「い。いい加減寝飽きた」
「頼むから寝てください」
「い。いがいがするだけ喉が」
「…が?がんばって寝てください」
二人は文章でしりとりをしだした。
「いはもういいので他のにしてくれ」
「連休取れませんよ」
浮竹は少しがっかりした。
「よしんば取れても仕事がたくさん溜まっているか」
「海燕様があらかた片付けていますが隊長の判がいるものもあるので」
「ではそれを終わらせてから連休をみんなで取ろうよ」
と違う男の声で、

「よがり声」

「…京楽隊長」
海燕が言った。
「バトンタッチ」
「引き受けた」
「じゃあ浮竹隊長、お疲れ様でした。よく寝てくださいよ」
「あ、ああ。帰るのか。ご苦労だったな海燕」
浮竹は寝たまま、子どもがやるような仕草で頭をずらして海燕に言った。
海燕は京楽と二言三言言葉を交わすと、お辞儀をして部屋を出て行った。
入れ替わりに京楽が入って来て言った。
「外はいい風だよー浮竹。夏も終わる。さ、え、だよ」
「え…えびしんじょう」
「うっ血のあと」
「豆腐」
「太もも」
「餅」
「乳首」
「…お前酔ってるな」
「なあに、び、だよほら。」
「…枇杷」
「君こそ腹が減っているのかい。わ、戦慄く浮竹」
「…。け、けんちんうどん…けんちん汁!」
「何回アウトなの君…」
「る、だ!」
「涙腺の弱い浮竹」
「芥子(けし)の実」
「みだれる浮竹」
「…それでいくと俺はずっと”け”だ」
「が見たい」
「…いやだな。い、いいだこ」
「恋心」
「炉辺焼き」
「キス」
「炭火焼き」
「ムードがないなあ…き、君だけが恋し」
「…”し”なのか?…春菊」
「朽木ルキア」
京楽が方眉を上げて言った。
「あ、」
浮竹が答えようとするとすぐに、
「愛してるでしょ、そこは」
と京楽は言った。
「言わないぞ」
浮竹が答える。
「愛が足りない」
「愛が欲しい」
「愛が怖い」
「愛が苦しい」
京楽は言い募る。
浮竹は疲れてきた頭で”あ”を探す。
「あー、あー、」
「なに?」
京楽が笑いながら言う。
「藍染…ちがったあいぜんそうすけ!」
「もう君の負け」


「布団に入ってもいい?」
「いいけど入るだけだぞ」
「かわいくないの」
「浮竹」
京楽は言って、
「僕の前で他の男の名を呼ばないで」
浮竹を抱き寄せた。


「うきたけじゅうしろう…うきたけじゅうしろう」
「あ…なんだエンドレス…」
浮竹が呟く。
「しりとりってかぶってもだめなんだよ」
京楽が口付けながら言う。
「もういっこあった」
「なに?」

「きょうらくしゅんすいはうきたけがすき」









08122009
今更だけどしりとりって…おっさん…


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