短夜   (みじかよ)




両の足を腰の位置まで持ち上げて強く掴んで揺する。
自分の滴る汗やこの情人の零したものが混ざり合って落ちる。
湿気を含んだ生温い風が、少し明けた窓から入って濡れ髪を冷やす。
自分もつらいが彼ももう相当につらいはずだ。
胸が激しく上下する。息を乱しているのは自分に突き揺さぶられているからというだけでない。

「き、京楽…もう無理だ」
「きみは、そう言ってからがいいんだよ」
「あっ…」

緩慢に腰に巻きついているだけの着物を取り払って自由にしてやった。

解放された浮竹の四肢は啼きながら弓なりに反らされてしなやかに伸びる。

それからほとんど気が落ちるように眠りについた。





規則正しい寝息を背中に聞きながら、身支度をした京楽は柱にもたれた。
足元にあるその幽かな水音のせいで全くの無音であるよりかえって感じられる静寂が心を落ち着かせる。
はなはだ離れがたい。

一夜がまた明けてしまうのを惜しく思いながら白々としてくるのを眺めていた。

背後が大儀そうに動いた。
目を覚ましたらしい浮竹が、横着をして自分の着物を手探りで掴み布団の中に引き込んでから、羽織って腰ひもを一つまくと、立とうとして呻いた。

「無理しなさんな」
「誰のせいだ」
京楽は白々明けの空に吐息で笑う。

「笑うな」

「ごめん」

京楽が変な間をおいて謝ったので、簡単に自分の戯言について謝っただけではないような気色を感じ取り、続いて責め立てる気になれず終りにしてしまった。ただ本当に何の気もないかもしれない、この男の癖にはいつも騙される。

「本当に、起きて来なくてもいいんだよ」
「いや、平気だ」
浮竹は京楽の隣に着いて腰を下ろした。



「もう、じきに明けるよ」
「ああ」
「夜が短くて寂しいね」
「夏至が近いからな」
「寂しいね」

浮竹は何とも言わず、黙って空を見ていた。

ここで普段の浮竹ならば、毎日会えるだろう、明日会えるだろう、いやもう今日じゃないか、などと平気で言うのを、同じ空を見て黙っている。
怪訝に思って尋ねる際(きわ)に浮竹が口を開いた。

「眠るときにお前がいないのと、起きた時にお前がいなくなっているのと、どちらが寂しいか知っているか」

「…どっちだい」
「決まっている」
「どっちだい」

浮竹は京楽の方を見るとむっとして少し睨んだ。

「言うのものか」

「自分で言って照れているんだね」
くっくっと京楽が笑いだす。

「うるさいぞ」
「おいで」


誘われて、浮竹は黙って京楽の肩に頭を寄せてもたれた。
京楽も黙って浮竹の頭をぎゅっと抱くと、そのまま二人でただ明ける空を眺めた。

















夜の短い季節です。
0612-0615.2012






戻る